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債務危機は差し迫っているか — 運用環境をめぐる論争の整理

GCI Memo from the Founder No.004

債務危機は差し迫っているか — 運用環境をめぐる論争の整理

2026 年9 月2 日
株式会社GCIアセット・マネジメント
山内 英貴

米国財政をめぐる議論が、この夏から市場の主要な論点として浮上しています。JPMorganのDimon CEO、Bridgewater創業者のRay Dalio氏が相次いで強い警告を発し、これに対しEd Yardeni氏が8月31日、「債務危機は差し迫っているか」と題する反論を公表しました。論争の構図と、私どもの見方を整理してお伝えします。
 

論争の構図

警告側の主張は、米国の債務が持続不能な軌道にあり、いずれ国債市場が機能不全に陥るというものです。これに対しYardeni氏は、懸念自体は共有しつつ「差し迫ってはいない」と結論づけます。氏の指標は明快で、10年債利回りが名目GDP成長率を上回るかどうか。現在は下回っており、利回りも4〜5%という金融危機前の平常レンジ内にあると見ます。加えて、財務省が短期債増発と長期債買い戻しで長期金利を抑制する手段を持つこと、FRBが物価安定への信認を回復させれば長期金利の圧力が和らぐことを挙げています。
一方で氏は財政の悪化そのものは全面的に認めています。公的債務は8月に40兆ドルを突破、純利払い費は年間1兆ドル超で国防費と同水準、財政赤字はGDP比約6%と景気後退期並みの水準が拡大局面で続いています。
 

私どもの見方

第一に、この議論の実質は財政分析ではなく、政策当局が市場の圧力を抑え込めるかという判断です。Yardeni氏の楽観論は、財務省とFRBの対応能力に依存しています。第二に、「債券市場が心配し始めたら心配する」という判断基準は、構造的に事後確認的です。指標が転換したときには価格調整は既に始まっています。第三に、警告側が結果的に早すぎたことは、彼らが誤っていることの証明にはなりません。
したがって、私どもが最も蓋然性が高いと考えるのは危機シナリオでも安心シナリオでもなく、「危機は起きないが、金利も下がらない」という中間の状態です。これは運用上、最も扱いにくいレジームです。8月31日には日本の長期金利も一時2.95%と約30年ぶりの水準をつけており、日米ともに同じ問いに直面しています。
危機を回避するためには、インフレを再燃させず、同時に名目成長率を維持して債務比率を安定させる必要がある。この政策制約そのものが、金利をかつての低水準へ戻しにくくする。
 

市場参加者の動き

  • 米大手プライムブローカー集計では、ファンダメンタル型ロング・ショート戦略のネットレバレッジが直近1年で下位3パーセンタイルまで低下。株価が上昇する一方で、方向性リスクを取れていない状態が続いています。
  • 米年金業界では、ヘッジファンドを収益追求ではなく「リスク緩和(risk mitigation)」の枠で採用する動きが報じられています。地政学リスク、ボラティリティ、AI関連銘柄への集中が動機とされます。
  • 7月の世界のETFには2,931億ドルが流入した一方、残高は350億ドル減少しました。資金は入っているが、値動きが吸収している構図です。

 

示唆

金利の方向を当てにいく運用よりも、金利が高止まりする前提でも収益源が機能するかどうかが問われる局面と考えます。株式・債券という伝統的な二資産の相関が安定しない環境では、その二つと異なる収益の源泉をポートフォリオ内にどう位置づけるかが、実務上の論点になります。
 
本稿は情報提供を目的として作成したものであり、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。記載の数値は公表資料および外部調査機関の資料に基づきますが、その正確性を保証するものではありません。

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